時々思い出したように
手首や首に手をあてて
脈を感じる
影を探す少年が今、
自分にナイフを向ける
どうかどうかしあわせにと
王子と燕がいのちをかけた
夢物語を
受けとるはずだった両手を
きれいに交差させて
脈を感じる
この生温かいからだを循環するなにかを知らずにこころだけがそれを否定するようになって
大人になったつもりの量だけ
汚いものを
知ったふりをしながら
静かに息を
吐いたり吸ったりして
泣きながら、海を思った
時々脈を感じる
帰りたいと伝えることが
出来ないままで
取り残された骨だけの魚が
迎えに来るまで
生きなくちゃならないと思った
両手を合わせたまま口元をおさえる
雑踏のなかでそっと呼吸をとめた
儀式のように映る、それは誰かに届くのだろうか
何かに向かって祈っているけれど
その先はぼんやりとして形にならない
だからこそ思いばかりが切実につのる
雨の匂いのする風が吹きつく、夕立がそこまで来ている
ここに来るまでに摘み取った、朝顔のつぼみをひとつ供えた
とうとう誰にも行きつく先もない祈りは
夏の気まぐれに流されてしまうのだろう
そして、生を目の当たりにしたときもう一度思い出す
ありありとそれはもう鮮やかに
伸びた前髪をヘアピンでとめて
あなたはご機嫌だ
夏に咲く花は鮮やかで触れることに躊躇する
入道雲と一日ずつ遠くなる蝉の鳴き声
熱帯夜を彩る打ち上げ花火を見ようって
ベランダに裸足で出る
あなたはご機嫌だ
この夏の日のまばたきを永遠に忘れないようになんて無理だろうから
ゲリラ豪雨が町をさらっていったあとの眩しい光を掴むなんて出来ないだろうから
今年の夏の真ん中にいるうちに
べたべたに汗をかいた手をつなぎあう
約束をしよう、
守れないようなとっぴな約束をして
夏には死にたくないなんて
嘘だか本当だかわからない話をして
いつか夏を終わらせよう
本当に何年かぶりに過去に書いた詩を振り返ってみた。
誰が書いたんだろうと思う。こんなにひとは変わってしまうのだなあと思う。
好きなことや嫌いなことや悲しいことが変わってしまうのだろうか。
今は息をひそめて言葉たちを拾いあつめてまた、ほころんだポケットに入れてまた、落としたりして残ったものをひとつひとつ並べてはやめたり、直したりしている。
これでいいんだろうか、どうかはわからないけれども。
それでも、つむぐことでこの焦燥を少し抑えられるならば。
ここでしか居場所のない言葉たちがいる。